先人が成し遂げたこと・失敗したことをしっかり学ぼう

東京大学教授の宮田秀明さんが,NBonlineのコラム「経営の設計学」の2008年4月4日の記事「去りゆく学生に感じた才気」の中で,先人が成し遂げた知識を学ぶことが大切だと述べています.

昨年12月の初め、Y君にメールを送った。 「今日のミーティングにも参加しないということは、卒業を諦めたということですね」。(略)

Y君は強すぎて世の中の厳しさを知らない

学生にはいろいろなタイプがいる。頭脳はある程度以上の者が選抜されているのだが、体力や精神力などの強さや性格的なものは千差万別である。

手取り足取りしなくてはならない虚弱な学生もいたりして、「手を取ったり、足を取ったりはしてあげます。 でも、大学だから抱きかかえて卒業させるようなことは絶対にしないからね」と言わなければならないケースもある。

Y君は強いコンピテンシーを持っていそうだったから、そんな心配はいらなかった。 部活でも成果を出していて、日本選抜チームにも入っていた。 しかし、Y君は強すぎて世の中の厳しさを知っていなかった。 こんな学生は徹底的にイジメて大きく育てなければならない。 教師にとっては何の気遣いもしないで教育できる、楽な学生の部類に入る。

彼の論文のテーマは結構ホットなものだ。 自動車組み立て工場ではジャスト・イン・タイム方式が一般的で、なおかつ銭単位の厳しいコスト管理がある。 部品工場の立地問題はコストと輸送リードタイムと在庫管理とのトレードオフに極限が要求される。 もちろん需要変動という、避けて通れない環境条件がある。 ジャスト・イン・タイム方式というのは、自動車組み立て企業の身勝手な方式と言うこともできる。

私の送ったメールに驚いて大学に現れたY君は、「大丈夫です、ちゃんと卒論をやります」と言う。 そして在庫と発注の仕組みについて話し始めた。

「僕は......と思うんです。これでいいですね」

私はこう答えた。 「まず勉強しなさい。 在庫と発注の仕方には定型的なものがあります。 勉強してから自分で考えなさい。」

Y君のように才気が先走るような学生は、ごくたまにいる。 私は、「君の考えは間違っている。 まず勉強してから、もう一度来なさい」という言葉を何度も彼に投げかけた。

ある時、「分かりました。勉強してきます」と言って部屋を出ようとするY君を私は引き止め、基本哲学を説明することにした。

「Y君、論語のこんな言葉を知ってる?」。 そして黒板に書いた。

"学びて思わざれば暗し、思いて学ばざれば危うし"

彼に説明した。 「私たちは創造的な仕事をしようと心がけています。 思うこと、自分で考えることは一番大切です。 でも、先人が成し遂げたことはしっかり学ばなければ、それを超えたかどうかも分かりません。 "学ぶ"ことと"自分で思う"ことのバランスは極めて大切です。」

あまり研究室に来ないで一人で勝手に研究するタイプにありがちな話です. (こういう場合の多くは,本人は「研究」しているつもりでも「勉強」にしかなっていません.)

研究室に来ないと仲間や教員と情報交換ができないので,他人の知識を活用することができません. コラムの言葉を借りれば,先人が成し遂げたことを既に学んでいる人の知識を活用できないということです.

特に大切なのは,研究室の教員や先輩が持っている失敗のノウ・ハウを活用することです.

論文や教科書には,うまくいく方法しか書いてありません. そこに書いてないからといっても,それを読んで簡単に思いつくようなアイデアはたいてい既に試みられていて,たいてい失敗しているのです. そのアイデアを実践しても失敗するから,そこに書いてないのです.

また,Linuxや研究ツールのインストール・使い方において,失敗する方法はなかなか書いてありません. ところが,説明の通りにやってもうまくいかないことはたくさんあります.

研究室にはそのような「試したけれどうまくいかなかった」という失敗のノウ・ハウが蓄積されており,これを活用しないと自分も同じ失敗をことになります.

先人は身近な所にもたくさんいます. 後輩であっても自分より先に始めていれば立派な先人です.

先人が成し遂げたこと・成そうとしたが失敗したことをしっかり学びましょう.

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コメント(2)

この記事は会社に入ってもずばり当てはまると思います。

Internetがこれだけ普及した現代、PCがあれば仕事・研究が出来るのにも関わらず、組織が存在し続ける理由の一つをこの記事は示唆していると思います。

貴重なコメントをありがとうございます.
いろいろな立場の人からいろいろなコメントをもらえるとうれしいです.

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