論文の価値が高ければ生産費は高くてもいい

asahi.comの2008年1月31日付けの記事に,論文の「生産費」についての面白いデータが載っていました.

東大の論文、1本1845万円 国立大でコスト最大級

東京大学の論文の「生産性」が国立大学の中で最低レベルにあることが文部科学省科学技術政策研究所の調査でわかった。研究費を論文数で割った1本当たりの「生産費」を比べた。東大など旧7帝大はおしなべて生産費が高く、旧帝大偏重が指摘されてきた国の研究費配分のあり方に一石を投じそうだ。

同研究所が各大学の06年度の財務諸表で、国からの科学研究費補助金や企業からの受託金など広義の研究費を集計。国内外約3万1000の科学や医学の専門誌に掲載された一定の水準以上の論文の数で割って、論文の生産費を算出した。

その結果、東大は論文数は4553本で1位だったが、1本当たりの生産費は1845万円。東大より上の8校は東京外国語大や一橋大といった文系などの大学で論文数が少ないために生産費が高く出ているだけで、実質的には東大が最も高かった。論文数700以上の大学に限ると、以下、大阪大、東北大、京都大と続いた。1000万円未満の大学が55校ある一方で、旧帝大はいずれも1000万円を上回った。

順位 大学名 「生産費」 論文数
1 東京大 1,845万円 4,553
2 大阪大 1,735万円 2,581
3 東北大 1,622万円 2,669
4 京都大 1,592万円 3,111
5 北海道大 1,228万円 2,062
6 名古屋大 1,228万円 1,981
7 東京工業大 1,088万円 1,829
8 九州大 1,071万円 2,596
9 熊本大 1,039万円 713
10 筑波大 942万円 1,429
国立大の論文1本あたりの「生産費」(06年度,論文数700以上).

この記事を読んで東大や旧帝大にネガティブなイメージを抱いた人は記者の術中にハマっています.

まず,このデータは,研究成果が論文だけではないことを無視しています. とくに,お金になる特許のことを考慮していないのは大問題です.

次に,コストが高くたって,それに見合う価値が生み出されていれば,何の問題もありません.

例えば,自動車ブランドごとのコストを比べるとレクサス,フェラーリ,ポルシェなどがスズキやダイハツに比べて上位になるのは間違いありません. しかし,それは価値が高い車を作っているためであって,コストそのものが高いことは悪いことではありません.

京大の山中伸弥教授が,新型万能細胞の研究で,国から今後5年間に100億円規模の研究費をもらえることになりました. これにより,山中先生の論文のコストがものすごく上がってしまいますが,この研究で生み出される特許や論文,育成される研究者の価値が総額で100億円を超えればいいのです.

また,この統計データが「論文数700以上」に限定しているところに注意が必要です. つまり,この制限を外すと上位にランク・インしてしまう大学があるということです.

実際に,元の資料を確認すると,東大は9位,九大は24位です. 1位の東京外語大は,論文数6!,論文1本あたりのコストは1億6,658万円!です.

というわけで,コメントを求められた東大の副学長もこう言っています.

東大の岡村定矩(さだのり)副学長(研究担当)は「いろいろな統計データがあるので、とくにコメントすることはない」としている。

ちなみに,元の資料(国立大学法人の財務分析)では,次のような指標を用いてクラスター分析していて,結構面白いです.

  • 教育:教育経費率,教員あたり学生数,学生あたり教育経費
  • 研究:研究経費率,教員あたり博士課程学生数,教員あたり研究経費,論文数,特許公開件数
  • 社会貢献:国等以外の受託事業費及び寄付金収益

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