『ニンテンドーDSが売れる理由』を読みました

かさぶた。」というブログで紹介されていた『ニンテンドーDSが売れる理由—ゲームニクスでインターフェースが変わる』を読みました.

この本は,ゲームの分野で発展してきたUI(ユーザ・インタフェース)について解説しています.

帯には「なぜテレビゲームにハマるのか—テレビゲームの中に隠された人を夢中にさせるテクニック:ゲームニクス」とあります.

この本の大半はゲームニクス理論について書かれているが,実際に有益なのは応用の話

この本は次のように4つの章で構成されています.

目次
  1. DSの大ヒットから読み解けること
  2. ゲームニクス理論
  3. 商品開発への応用
  4. 教育分野への応用

メインは第2章の「ゲームニクス理論」で,全256ページ中148ページ,つまり半分以上あります.

「ゲームニクス」とは,著者の造語で,「使いやすく,使い込める」UIを開発する技術の総称です.

ゲームニクスでは,次の2つを目標に掲げています.

ゲームニクスの2つの目的
  1. 直感的な操作性を実現する(誰でも,マニュアルを読まなくても使い方がわかる)
  2. 段階的な学習効果を実現する(誰でも,いつのまにか機能を使い込めるようになる)

そして,ゲームニクス理論は次の4つの要素で構成されています.

ゲームニクス理論の4要素
  1. 直感的なUI
  2. マニュアル不要の操作理解
  3. はまる演出と段階的学習効果
  4. ゲームの外部化

ただし,この章は読んでいるうちに疲れてしまいます. (その理由は後述します.)

システムを開発している人には第3章の「商品開発への応用」が,教育に携わっている人には第4章の「教育分野への応用」がオススメです.

すべてのシステムはゲームニクスを採り入れるべき

第3章(の後半)では,東芝のHDD+DVDレコーダーの商品企画担当の青山幸司さんにインタビューし,そのリモコンとソフトウェアのインタフェースがどのように発展して来たのかを紹介しています. さらに,これにゲームニクスの観点による説明を加えています.

この章の最後に,ゲームニクス理論の観点から推奨されるデザインを次のようにまとめています.

推奨される10のデザイン
  1. ボタンやアイコンの数を絞る
  2. 複数の操作系を導入しない
  3. ハードウェアとソフトウェアの連携をとる
  4. ボタンの意味をモードによって変えない
  5. キャンセル・ボタンを省略しない
  6. アニメーションや操作音を軽視しない
  7. 操作のリズム感を重視する
  8. 複数の選択を同時に強要しない
  9. チュートリアルを軽視しない
  10. 学習効果を採り入れる

この本を読んでいると,すべてのシステムはゲームニクスを採り入れるべきだと思えてきます.

ユーザに何らかの操作を要求するシステムを開発している人にはすごく参考になるでしょう.

教育にもゲームニクスを

子どもも大人も夢中になれる要素を授業に採り入れることができれば,教育効果が高まることは間違いありません.

第4章では,教育NPOのACE(企業教育研究会)理事で千葉県富里市教育委員会の古谷成司さんとACE理事長で千葉大学教育学部准教授の藤川大祐さんにインタビューし,ゲームニクスと教育の関係について述べています.

まず,面白いゲームと優れた授業は,次のような点で似ていると指摘しています.

ゲームニクス理論とよい授業とのつながり
  1. 次に何をしたらよいのかを直感的に理解させる
  2. 内容以前に,行為自体が楽しくなるような工夫と演出
  3. トータル・テンポとシーン・リズムの配分
  4. 少しずつスキル・アップしていく様子を演出する
  5. 押しつけではなく,いかにも自分が発見したような喜び
  6. ストレスと快感(リスクとリターン)の配分
  7. ハマらせるための工夫
  8. ステージに上げる
(注:原文では「トータル・リズムとシーン・テンポの配分」となっていますが,たぶん誤りなので訂正しました.)

藤川さんは,「(公式や法則を)覚えなさい」は教師にとってのNGワードだと指摘しています. まずは簡単な問題で興味を引かせるなどの「楽しみ」を先に与え,その後から難しい問題や法則のような抽象論を提示すると,全く食い付きが違ってくるそうです.

「クリアするだけなら簡単だが,極めようとすると難しい」というテストの点数配分や,「わからなくてもとりあえず先に進める」という授業構成など,ゲームニクス理論が授業に応用できるところはたくさんあるようです.

私が担当しているプログラミングの授業でも,ゲームのことを意識せずに,同じようなことを心がけていました. これからは,もっとゲームニクス理論を意識して応用してみたいと思います.

授業をやっている人にもとても参考になるでしょう.

第2章は再構成が必要

第2章は,この本の核心となる部分にもかかわらず,あまりよくありません.

まず,この本でも大切だと主張している「リズム感」がないため,本来の面白さが半減しています.

次に,本書の内容は,なぜか家庭用ゲーム機だけが対象となっているようです. 業務用ゲーム機を抜きにしては,ゲームのUIを考えることはできません.

この章の再構成が必要な理由は,これだけではありません.

残念なことに,ゲームニクス理論の1番目の要素「直感的なUI」の構成がMECE(モレなく,ダブりなく)になっていません

それは,画面(アウトプット)のデザインと操作性(インプット)のデザインがごちゃ混ぜになっているからです. これらは,切り分けて議論すべきです.

入力デバイスとしては,

  • 「電車でGO!」などシミュレーター系ゲームの専用デバイス,
  • 「ムシキング」や「ラブ and ベリー」のカード・リーダ,
  • 「WWCF(WORLD CLUB Champion Football)」や「三国志大戦」のICカード・リーダ
などがモレています. (注:ICカード・リーダは業務用です.)

どれも大ヒットしたゲームですし,もしこれらが従来のインタフェースで操作するゲームだったらヒットしなかったでしょう.

また,「ストリート・ファイターII」を始めとする格闘ゲームで大流行したコマンド入力方式は,従来の入力デバイス(スティックや十字キー)をそのまま使うという制約の下で多くの項目を選択可能にしたUIとして注目すべきです.

出力デバイスとしては,

  • N64やPSからコントローラに付加された振動デバイス,
  • ハンドル・コントローラやアナログ・スティックに付加されたフォース・フィードバック・デバイス,
  • Wiiからコントローラに付加されたスピーカー
などがUIに大きな影響を与えていると思いますが,これらについては何も書かれていません.

さらに,ゲームニクス理論を構成する要素の4番目「ゲームの外部化」というキーワードが分かりにくいです.

この節は,現実の世界をゲーム感覚で楽しむことと,現実の世界をゲーム内に再現することについて書かれています.

ですから,4番目の要素は「現実との接点」としてはいかがでしょうか.

最後に,もうひとつだけ.

本書全体が豊富な実例に基づいてイイ感じなのに,なぜか「メニュー画面のゲームニクス」だけは架空のゲームで話を進めています. この程度なら「ゼルダの伝説 時のオカリナ」など実例はたくさんあるハズで,実例に勝るものなしです.

総評:まとめ直したゲームニクス理論の本に期待したい

文句をたくさん並べてしまいましたが,本書はゲームのUIの素晴らしさとその応用可能性について豊富な事例を交えて紹介しており,とても勉強になりました.

今後のゲームニクス理論の発展に期待したいです.

この本を,ユーザに何らかの操作を要求するシステムを開発している人と授業をしている教育関係者にオススメします.

ただし,第2章の途中で疲れる可能性があります. もしそうなったら,第3章か第4章を先に読んじゃいましょう.

まずは,システム開発の仕事でデザイナと喧嘩しているという私の妻にススメます.

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